進化とオープンネス

学際科学科記念シンポジウム

進化というのは、既存の科学と決定的にちがうところがある。それは実験的な検証が不可能で、間接的にしか行えないこと。基礎となるのは150年前に提出された天才ダーウィンによって書き下ろされた種の起源という本。しかし数学とコンピュータ、さらに分子生物学、synthetic Biologyの発展により、進化は構成可能かどうか、さらなる理論化は可能か、というところにやってきた。特にこの10年の莫大なデータの生成と解析により、進化論は新しい側面を迎えるかもしれない。
 この秋から新たに始動を始める新学際科学科は、その構成メンバーに進化生態学の主力メンバーをそろえ、かつ講義として進化・認知コースを掲げている。進化の科学は基本的に学際的なものである。数学・物理・化学・生物学・哲学・地理・歴史、それらの総合的知として初めて成立するものである。そこで、この新学科の開催を記念しつつ、進化を現在どう考えているか、それを前半では大いに議論する。

一方で、そうした学際的な学問体系を支える大学はずのフレームワークそのものが、ここにきて大きな摂動を受けている。アメリカの東海岸では講義をネットで外に公開し、西海岸では講義そのものをやめようという学科まで出現している。東京大学も秋入学や国際化をはじめ、多くの改革を自発的に議論し始めている。そしてこれらの流れは、本質的にインターネットの強力な「オープンネス」というロジックをベースとする。ここでいうオープンネスとは、情報や知識、構造やパターンが固定化されず、つねに変動しながら成長していくという意味である。これはもちろん生命進化の一義的な性質でもある。そこで後半では、大学システムそのものの進化、というテーマを考え、この問題に対してかつてから活発に意見をだされている茂木健一郎氏を招き、みんなで議論していきたいと考えている。

前半と後半、一見独立にみえる進化と大学の問題をつなげてシンポジウムにするのには意味がある。前半で大学でいろいろな分野の専門家が集まって、進化という総合知を議論する状況というものを具体的に示し、後半ではそれを頭に入れつつ、大学で講義をする・学ぶというフレームワークにおける、オープンネスと進化について考えてほしいからである。

このシンポジウムは誰でも参加自由。活発な議論を期待したいです。


日時:2012年6月2日
場所:東京大学駒場キャンパス 16号館 119-129教室
13:00 - 17:00
セッション1テーマ:進化論
13:00 - 13:10長谷川寿一
13:10 - 13:25池上高志
13:25 - 13:40嶋田正和
13:40 - 13:55信原幸弘
13:55 - 14:10岡ノ谷一夫
14:10 - 15:00パネルディスカッション
セッション2テーマ:大学の進化
15:15 - 15:45茂木健一郎 (招待講演)
15:45 - 17:00パネルディスカッション
         石原孝二, 開一夫, 岡ノ谷一夫, 安部敏樹, 池上高志

長谷川寿一

専門は行動生態学。研究テーマはインドクジャクの配偶者選択、ヒト・類人猿の生活史戦略と配偶戦略、自閉症者の認知など。
東京大学教養学部長、総合文化研究科長

嶋田正和

専門は個体群生態学、進化生態学、行動生態学、社会生物学。主に昆虫を対象として、実験系や野外での個体数変動、繁殖の行動生態学、生活史の進化、植物と昆虫の共進化など、モデル解析も併用して研究。材料は、主にマメ科-マメゾウムシ類-寄生蜂の3栄養段階系。最近は特に、マメ科種子とマメゾウムシ類の系統対応、寄生蜂の学習行動と動態などを調べている。分子マーカーや分子系統 解析などDNA分析も併用する。一方で、生き物が示す現象を、個体数動態の数値計算、遺伝的アルゴリズムによる進化プログラミング、ニューラルネットワークによる記憶と学習のモデルなどを駆使してシミュレーション解析する。
東京大学教養学部 学際科学科 教授

信原幸弘

専門は科学哲学、心の哲学、認知科学の哲学。大学院のときから現代にいたるまで、現代英米圏の心の哲学に依拠して、心の哲学を研究してきたが、近年は、「ニューロ3本立て」ということで、ニューロフィロソフィー、ニューロエシックス、ニューロリテラシーの研究に取り組んでいる。
東京大学教養学部 学際科学科 教授

岡ノ谷一夫

慶應義塾大学文学部卒業後、米国メリーランド大学大学院で博士号取得。千葉大学助教授、2004年理化学研究所脳科学総合研究センター生物言語研究チーム・チームリーダー。2008年ERATO情動情報プロジェクト総括を兼任、2010年東京大学総合文化研究科教授兼任。小鳥の歌に言語の起源を見る研究で知られる。
東京大学教養学部 統合自然科学科 教授

茂木健一郎

脳科学者。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職。主な著書に『脳とクオリア』『脳と仮想』など。「クオリア(感覚の持つ質感)」をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに、文芸評論、美術評論にも取り組む。
ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー、慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特別研究教授

石原孝二

科学技術哲学、現象学を専門とする。最近では特に脳科学技術やロボティクスの展開が「心」の捉え方をどのように変えていくのかという問題や、当事者研究、精神医学の科学哲学、障害の哲学などについて研究を進めている。
東京大学教養学部 学際科学科 准教授

開一夫

専門は赤ちゃん学、発達認知神経科学、機械学習。人間の心のメカニズムを、脳と行動の発達・成長の観点から研究している。著書に『日曜ピアジェ 赤ちゃん学のすすめ』(岩波書店)、『現代工学の基礎 情報の表現と論理』(共著、岩波書店)など。
東京大学教養学部 学際科学科 教授

安部敏樹

”みんなが 社会問題をツアーにして発信・共有するプラットフォーム”『リディラバ』を2009年に設立。3・11以降は被災地の医療支援やボランティアツアーの企画などにも尽力。リディラバは学生や若手社会人を中心にツアー会員が約1,000 名、これまで40以上の社会問題のツアーや企画を実施。また19才から今も、オーストラリアとギリシャでマグロ漁船の仕事にも定期的に携わる。2012年 の主な受賞履歴として、学生起業家選手権優勝、ビジコン奈良ベンチャー部門トップ賞、起業家甲子園優勝などがある
東京大学 総合文化研究科 広域システム科学系 修士課程2年

池上高志

複雑系研究者 89年東京大学大学院理学系研究科、物理学修了。理学博士。複雑系と人工生命を研究テーマとし、ダイナミクスからみた生命理論の構築を目指している。博士号取得後、自己複製や進化理論、ゲーム理論の研究を精力的におこなう。その成果を「複雑系の進化的シナリオ」(朝倉書店)として刊行。98年以降には、身体性の知覚、進化ロボットの研究を展開。近年は、油滴の自発運動の化学実験や、自律ロボットを使ったロバストネスの実験もおこなっている。07年その成果の一部を「動きが生命をつくる」(青土社)として出版。おもに人工生命の国際会議(ALIFE)に参加し、08年の人工生命国際会議の基調講演なども務める。国際ジャーナル(BioSystems, ArtificialLifeなど)の編集もおこなっている。
東京大学教養学部 学際科学科 教授