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: 計算量 : LETSの自然な拡張としての相対値貨幣 : LETSの特徴

相対値貨幣の導入

相対値貨幣はとても素朴な発想から生まれた。価格が感謝の気持ちの表れなら、当然それは伝播すべきだ。AさんがBさんに0.4をあげて、BさんがCさんに0.2をあげたら、AさんはCさんに0.08あげるようなシステムができないだろうか。しかも伝播が直線的とは限らず、ループになっていたら、どうやって計算すればいいのだろうか。原理的には、ループどころの話ではなく、N人いればN×Nの線が飛び交う世界になるはずだ。この描像は、経済世界における各人の貢献度を正確に表現することが可能なはずだ。実は、この問題を計算する数学的な方法が存在する。

N人の参加者がいるシステムを考える。N人はそれぞれN人に対して相対値$A_{ij}$(参加者jから参加者iへ0以上1以下の評価をする)を支払うことができる。


$\displaystyle 0 \leq A_{ij} \leq 1$     (1)
$\displaystyle (i,j=1,2,3,\dots,N)$     (2)
$\displaystyle \sum_i A_{ij}=1$     (3)

例えば、aがbにものを売り、その相対値価格が$\alpha$だったとすると、

\begin{displaymath}
A_{ab}(T+1)=A_{ab}(T)+\alpha
\end{displaymath} (4)

Tは計算機上の大きな処理単位。ただし、すでに $\sum_{i}A_{ij}=1$のときにはこの処理の前に,
\begin{displaymath}
A_{ib}(T)=(1-\alpha)A_{ib}(T-1) \:\: (for \;all \;i)
\end{displaymath} (5)

が規格化のために必要である、ちょうど、一人1票の投票権をもっていて、1票を分割してたくさんの人に投票しているようなものだ1。このAを評価行列とよぼう。

このように、まず取引(フロー=Arrow)があり、そこからストックが計算できれば、LETSにおける口座に相当するだろう。具体的には、マルコフ過程の定常状態がそれに相当する。N人がそれぞれ水槽を持っていて水全体はNリットルだとしよう。この場合の水槽の水量がストックに該当する。水槽$j$の水を$A_{ij}$の割合で水槽$i$に移すという操作をすべての$A_{ij}$に対して行う。この操作をどんどん繰り返すと、いつか水槽の水が移動しなくなる。つまり、どの水槽も出る量と入る量が変わらなくなるのだ。このときの水槽中の水量がストックであり、その人のコミュニティへの貢献の度合いである。各水槽中の水量$x_j$を並べたものを評判ベクトルとよぼう。

評価行列(フロー:価格)から評判ベクトル(ストック:口座残高)を計算するアルゴリズムが存在するので、コンピュータを使って自動的に計算することができる。数学的には、$A_{ij}$から固有値、固有ベクトルを求めることにすぎない。すなわち、

\begin{displaymath}
Ax=\lambda x
\end{displaymath} (6)

この式の意味は、あらゆる参加者において、左辺(収入)と右辺(支出)が等しくなるという条件である。すなわち、利潤がゼロであることを保証するような口座残高(固有ベクトル)を求めている。ただし、
\begin{displaymath}
\lambda \sum_j x_j=N
\end{displaymath} (7)

とする。これは、参加者の人数が変動しても価値基準を一定に保つためである。

フローが決まるとストックが決まるというこの構造はLETSと同じだ。評価行列も評判ベクトルも相対値だが、相対値貨幣が「相対値」たる所以は評価行列が相対値であることによる。

取引が行われるごとに評価行列が変化するので、評判ベクトル(口座)も変動する。したがって、一回取引が行われるごとに、上の数学的計算がおこなわれる。すべての人が均等にArrowをだすとすると、全員の口座は当然1なのでLETSの口座での0に相当するのが相対値貨幣での1である。したがって、参加者は取引相手が1より大きいか少ないかをもって、いままでのコミュニティへの貢献度を知る。あまりにこの数字が少ない人は、購買力が得られないだろう。この数字は割合なのでマイナスになることはないが、最大でNにまですることはできるだろう。

このままのモデルでは相対値貨幣の参加者は自営業者しかできないので、集団としてプロジェクトを運営することが望まれる。そのためには、相対値貨幣にプロジェクトの生成というオペレーションを加えればいい。プロジェクトは、初期のストックはゼロでありそれ自体がArrowの源泉になることはできないが、誰かのArrowを受け付け誰かにArrowを分配することはできる。プロジェクトの生成、新規加入、脱退、解散に応じて、Arrowを個人から集約したり再分配するような数学的操作を定義する。要するにプロジェクトは仮想的にしか存在していないのであって、基本はN×NのArrowなのである。



Ken Suzuki 平成13年4月7日